一乗谷
朝倉氏庭園

戦国大名として5代100年にわたって越前を支配した朝倉氏が、一族の館などに造った四つの庭園群(湯殿跡、諏訪館跡、南陽寺跡、朝倉館跡)。日本三大武将庭園の一つで、国の特別名勝に指定されている。
朝倉氏が城下町を構えた福井県福井市郊外の一乗谷は、京都から室町将軍も訪れるなど、成熟した武家文化が栄えた。
1573年に織田信長によって朝倉氏が滅ぼされると、一乗谷は焼き打ちに遭い、歴史の表舞台から消えた。昭和になって田畑から遺跡が見つかり、発掘・整備が進んだ。土の下に眠っていた「戦国武将の庭」がよみがえり、越前朝倉氏の栄華を今に伝えている。
栄華の跡
今は銀世界

湯殿跡庭園
一乗谷の庭園群のなかで最も優れた石組みを残す庭。高い密度で配された石組みは荒々しく、勇壮で、武将庭園の代表格だ。
躍動感のある力強さと緊張感を併せ持つとも評される。
湯殿跡庭園は高台にあり、当主が住む朝倉館を見下ろす位置にあるため、相応の身分の人物がいたと考えられる。
雪が降り続き、モノクロの世界に様変わりした湯殿跡庭園
雪が降り続き、モノクロの世界に様変わりした湯殿跡庭園
荒々しく勇壮な石組み
荒々しく勇壮な石組み
諏訪館跡庭園
5代朝倉義景の側室、小少将(こしょうしょう)が住んだ館の前庭で、四つの庭園のなかで最も大きい。
庭の中心部には高さ4メートルの巨石が据えられ、圧倒的な迫力と存在感を放つ。
勾玉のような形をした池の護岸にある石組みも豪華で、昭和を代表する作庭家・重森三玲は「庭園美の最高を誇っている」と評した。
雪化粧した諏訪館跡庭園
雪化粧した諏訪館跡庭園
南陽寺跡庭園
小ぶりな庭ながら、一乗谷の庭園群のエッセンスが凝縮されたような美しさをたたえる。
南陽寺は朝倉氏の子女が入る尼寺。
室町幕府最後の15代将軍となる足利義昭を招き、境内のしだれ桜を眺めながら、歌会が催されたと伝えられる。
一乗谷の庭園群のエッセンスが凝縮されたような美しさをたたえる南陽寺跡庭園
一乗谷の庭園群のエッセンスが凝縮されたような美しさをたたえる南陽寺跡庭園
湯殿跡庭園にひっそりと咲くツバキ
湯殿跡庭園にひっそりと咲くツバキ
一乗谷朝倉氏遺跡の入り口となる「唐門」と星空(多重露光)
一乗谷朝倉氏遺跡の入り口となる「唐門」と星空(多重露光)
新緑に彩られた諏訪館跡庭園
新緑に彩られた諏訪館跡庭園
紅葉が美しい湯殿跡庭園
紅葉が美しい湯殿跡庭園
朝倉館跡
朝倉館跡
雪が降り積もった一乗谷朝倉氏遺跡
雪が降り積もった一乗谷朝倉氏遺跡
遺跡入り口の「唐門」
遺跡入り口の「唐門」
霧に桜が浮かび上がり幻想的な雰囲気に
霧に桜が浮かび上がり幻想的な雰囲気に
おびただしい石に、雪が降り積もっていく。ふだんは枯れているという池が、シャーベット状の雪をたたえている。尋常ならぬ雰囲気。その空気を醸し出すのは、白が支配する世界で唯一、暖かな色をともすツバキだろうか。それとも、この庭を築き、やがて滅んだ戦国大名への追憶だろうか。
中世の豪族らから越前を奪い取り、代表的な下克上大名となった朝倉家。「宿老を定むべからず。その身の器用忠節によりて申し付くべきこと」との家訓に基づき、実力第一主義で組織を練り上げてきたが、織田信長に敗れた5代義景の頃の朝倉家は「越前朝倉の兵は強い。しかし朝倉五代の平和が、兵の練度を低くしていた」(司馬遼太郎「街道をゆく 近江散歩」)と書かれる始末だ。
信長に町を焼かれ、ついに滅亡へと至る以前の一乗谷の繁栄をしのぶよすがが、発掘保存されている庭園群。主要な四つの庭の中で一番古いとされているのが湯殿跡庭園だ。
「三尊石組(さんぞんいしぐみ)」「亀石組」「鶴石組」といった作法に基づく石の配置よりもむしろ、1573年の滅亡から400年の時を経て世に再び全貌を現した石たちの表情に目を奪われてしまう。
ひび割れたり、欠け落ちたりしながら雪の覆いから姿をのぞかせる石を眺めていると、冷えていく自分の体の内奥から発する熱と石が抱く熱とがシンクロするような不思議な感覚に襲われた。
遺跡の発掘が始まる1967年以前に芸術家岡本太郎が湯殿跡庭園を訪れて撮影した写真が彼の著書「日本の伝統」に収録されている。「ごろごろした石と、くぼみだけがのこっている。一種悽愴(せいそう)の気をおびて、じっさいに水をたたえていた昔のことを想像してみても、やはり現在の姿のほうがすぐれていると感じる」
草むした庭の前で長い時間身じろぎもしなかった岡本の姿は地元の語り草になっているという。この庭に立ち尽くす彼の胸に去来したものは何か。「自分の生命、未来がそこに投影され、凝固されているような思い」(「美の呪力」)ではなかったか。
文・中山敬三
写真 動画・畦地巧輝、板津亮兵、蓮覚寺宏絵

アクセス
福井県福井市城戸ノ内町
【公共交通】
JR越美北線「一乗谷」駅から遺跡中心部まで徒歩15分
京福バス「朝倉資料館前」または「復原町並」下車
【自家用車】
北陸自動車道「福井IC」から車で8分
【開園時間】
午前9時~午後5時
【入園料】
無料