専修寺 雲幽園

専修寺は親鸞聖人を開祖とする浄土真宗高田派の本山。庭園は「雲幽園」と呼ばれ、室町時代に造られたと伝わる。池の周囲を巡る池泉回遊式庭園で、自然の美しさをそのまま生かしているのが特徴。境内には三重県で唯一の国宝建造物があり、御影堂は国宝の木造建造物として全国で5番目の大きさを誇る。高田派の末寺は全国約600カ寺あり、浄土真宗では西本願寺、東本願寺大谷派に次いで3番目に多い。

聖人に至る

緑の浄土

幽雅仙境

御影堂の裏手にある庭園は、広さ1万平方メートルに及ぶ広大な池庭で、名古屋の庭園研究家、澤田天瑞は「幽雅仙境の趣がある」と評した。

池の周囲の苔むした道を歩くと、金明竹と呼ばれる細くて黄色い竹が池の水際にあちこちに群生している。

茅葺きの門をくぐると、短冊状の形をした伊予青石を2枚組み合わせた石橋が現れ、木々の間から望む中之島も風情がある。

池の水際は石組みを使っていない洲浜形と呼ばれる庭園形式で、いわば自然のままの姿だ。

昭和を代表する作庭家、重森三玲は「地割の美が日本庭園史上の好参考資料である」と評価した。

安楽庵前に生える金明竹

安楽庵前に生える金明竹

上空から俯瞰で見る雲幽園

上空から俯瞰で見る雲幽園

安楽庵

茅葺き屋根の瀟洒な茶室。

千利休の長男道安と、織田信長の末弟有楽斎長益の高名な茶人が手がけ、2人の名前から1文字ずつ取って命名された。

茶室の周辺には杉苔が広がり、飛び石が打ってある。

茶室の踏石の左上には刀掛けの棚があり、武士はここに刀を預けた。

60センチ四方の狭さの「にじり口」から3畳の茶席に入り、わびさびの世界を味わったのだろう。

緑が生い茂る安楽庵

緑が生い茂る安楽庵

安楽庵の前に広がる庭園。池の水際には石組みがない

安楽庵の前に広がる庭園。池の水際には石組みがない

国宝

御影堂と如来堂は2017年に三重県で初めて国宝建築物に指定された。

江戸初期の1666年に建てられた御影堂は親鸞聖人の木像を安置し、広さは畳敷き780枚分ある。

如来堂の正面に建つ唐門は壮麗な彫刻が施され、元々は天皇の使者が通る勅使門として造られた。

身分の差に関係なく、教えを広めたいという親鸞聖人の考えに従って一般開放されている。

国宝の御影堂(右)と如来堂

国宝の御影堂(右)と如来堂

絢爛豪華な御影堂内部

絢爛豪華な御影堂内部

藤堂高虎

城造りの名手として知られる藤堂高虎は津藩の初代藩主で、長女が専修寺第15世堯朝上人に嫁ぎ、専修寺を庇護した。

藤堂家は専修寺に広大な土地を提供したほか、伊予青石の石橋も寄進した。

専修寺の周囲には環濠を巡らせた寺内町が広がるが、環濠も藤堂家の支援で造られたと考えられる。

専修寺の周囲には環濠を巡らせた寺内町が広がる

専修寺の周囲には環濠を巡らせた寺内町が広がる

親鸞聖人の木像を安置した御影堂と阿弥陀如来立像を本尊とする如来堂。通天橋で結ばれた2棟の大伽藍(いずれも国宝)の背後に広がる1万平方メートル余の池泉回遊式庭園が雲幽園だ。中の島がある北寄りの池庭と南の池庭を細い流れでつなぐ配置などから、南北朝時代の作と推定されるという。

杉苔を踏まないよう飛び石の上を歩こうとすると、苔の上を小さな影が通り過ぎていく。見上げると胴体が水色のトンボの一群。池の周囲に石組みが見当たらない「州浜形」の水際では、別のトンボがホバリングしている。捕虫網を手に夏の野を駆け回っていた少年時のように、素早く虫を見つける感覚がよみがえってくるようだ。

竹林から飛び出してくるアブ、葉の上で休むチョウ1匹、1匹を目で捕捉しながら進むと、茅葺き屋根の建物が見えてきた。千利休の長男道安と織田信長の弟有楽斎長益の茶人2人から名を付けたと伝わる江戸初期の茶室「安楽庵」。映画「レジェンド&バタフライ」(2023年)のロケに使われた。

そういわれると、庵のそばに群生する黄色っぽい竹「金明竹」に見覚えがある。信長に暇乞いをした濃姫の別居後の住まいとして使われていたはずだ。「おまえさまほど人を殺したものがいまだかっておったじゃろうか」。信長の殺生をなじる濃姫のせりふを思い出し、かつての虫捕り少年は意気消沈してしまった。

長い土塀や環濠があるこの寺内町は「丹下左膳餘話 百萬両の壺」(1935年)「無法松の一生」(43年)などの撮影にも使われた。映画「親鸞 白い道」(87年)を監督した俳優三国連太郎さんのことが思い出される。生前、親鸞への傾倒を隠さなかった三国さんは映画で、関東で布教を続ける親鸞に「御仏は罪深いわしたちのありのままの姿を見抜かれた上で、お救いくださるのです」と言わせている。

親鸞聖人が著した「正信偈」では、信心深い俗人を白い蓮の花に例え「分陀利華」と呼んでいる。蓮の花が咲き誇る境内のどこかで三国さんと再会できそうな気がした。

文・中山敬三

写真 動画・板津亮兵、森研人

アクセス

三重県津市一身田町2819

※雲幽園(安楽庵)は事前の申し込みが必要

【公共交通】
JR 一身田駅から徒歩約5分。駅の広場を出て右へ曲がり、道なりにまっすぐ進むと本山前に着く

【自家用車】
伊勢自動車道津ICより15分
伊勢自動車道芸濃ICより15分

【山門開門時間】
午前6時~午後5時(御影堂・如来堂は午後3時半閉堂)

【休館日】
なし

【入館料】
無料

【問い合わせ】
059-232-7234