教林坊

「石の寺」の異名を持つ教林坊庭園は苔(こけ)むした巨石の石組みが見どころ。

仏教の世界観を豪快に表現した桃山様式の庭園で、不老不死を願って鶴や亀に見立てた巨石がある。

茅葺(かやぶ)きの書院は苔で覆われた石庭と調和しており、「庭屋一如(ていおくいちにょ)」の趣をなす。

紅葉の名所で知られ、毎年11月15日から12月初旬にかけてライトアップが行われる。

鳰の海
ほとりの彼岸

聖徳太子


教林坊は日本各地に仏教を広めていた聖徳太子が推古13(605)年に創建したと伝わる。

当地を通りかかり、山麓の光り輝く場所に近づいたところ、岩屋の中から観音様が現れて告げた「ここに寺を建ててわが教えを伝えよ」との言に従ったとされる。

太子は林の中で説法したことから、教林坊と命名された。

太子が座った「太子の説法岩」と呼ばれる大きな岩が今も残る。

戦国時代になって織田信長によっていったん焼失したものの、後に再興された。

庭園は江戸時代に小堀遠州によって造られたと伝わる。

聖徳太子が座った「太子の説法岩」

聖徳太子が座った「太子の説法岩」

書院には聖徳太子の像が置かれる

書院には聖徳太子の像が置かれる

掛軸庭園

茅葺きの書院は江戸時代前期に建てられ、庭園と並ぶ見どころ。

書院の座敷が庭を眺める一番のビューポイントとなる。

書院には床の間がなく、掛け軸はかけられないが、庭園の眺めを掛け軸のように取り込む仕掛けがある。

座敷の縁側にある窓の障子を少し開け放つことで、四季折々の庭の景色が一幅の掛け軸のように眺められる。

庭を切り取って建物に取り込む「掛軸庭園」と呼ばれるゆえんだ。

書院から庭を眺めると障子が掛け軸のように配置されている

書院から庭を眺めると障子が掛け軸のように配置されている

書院からの庭園の眺めが掛け軸のように見える

書院からの庭園の眺めが掛け軸のように見える

鶴亀とカエル

書院から見て、正面の左手にある縦長の特徴的な石は鶴を表現した「鶴首石」だ。

甲羅と頭を模した二つの大きな石で亀を表現している。この鶴と亀は説法岩のある左を向いており、聖徳太子の話を聞いている。

カエルに似た巨石「カエル岩」もあるが、こちらは右を向いている。

聖徳太子が奈良の都で学んでいた頃、カエルの鳴き声がうるさくて集中できず、カエルを懲らしめたという故事が法隆寺に残る。

教林坊のカエルはそれを根に持ち、説法を聞かずにそっぽを向いているという言い伝えもある。

手前の平たい石が亀、右上の角張った石がカエルに見立てられている

手前の平たい石が亀、右上の角張った石がカエルに見立てられている

左の縦長の石が鶴、真ん中上の石が「太子の説法岩」、右の角張っている石がカエルに見立てられている

左の縦長の石が鶴、真ん中上の石が「太子の説法岩」、右の角張っている石がカエルに見立てられている

亀島を浮かべる池に紅葉が折り重なる。「近江の湖は海ならず、天台薬師の池ぞかし」「四方より花吹入て鳰の海」。湖なのか、海なのか、それとも池か。琵琶湖を詠んだ一見相反する梁塵秘抄の一節と芭蕉の句が、桜花よりいっそうあでやかな紅葉の世界で一つに溶け合っていく。

 教林坊は605年、聖徳太子によって創建されたと伝わる。寺名は、太子が林の中で教えを説いたことに由来。書院のあたりから庭を眺めると、亀島と対をなす、そそり立つ鶴首石のほかに「太子の説法岩」と呼ばれる巨石やカエルに見立てた石がある。奈良の斑鳩宮で鳴き声がやかましいと太子からお仕置きされたというカエルは、説法岩をあえて無視する向きに置かれている。

 おおらかな古代の説話と桃山様式の精緻な美意識が共存する光景。さらに、後景の竹林が風にたわみ、静と動のコントラストが鮮やかに際立つ。書院の中から一幅の山水画を眺めるように庭を楽しむ、しゃれた「掛軸庭園」の仕掛けもあり、1995年に現在の廣部光信住職が就任するまで数十年間、荒れ放題の寺だったとはとても想像できない。

モミジが落ち赤く染まった庭園

モミジが落ち赤く染まった庭園

 この庭を訪れた白洲正子は随筆集「かくれ里」(1971年刊行)の「石の寺」の章で「蓬萊山などという思想が入る以前に、私たちの祖先は、死者のための極楽を創造していたのである。仏教が盛んになって、大きな墓作りは廃れたが、それは別の形をとって、生まれ変って行き、石庭に至って完成した。形は変っても、底を流れるのは同じ『彼岸』の思想である」と考察する。

 日本画家東山魁夷は、随筆「石庭の幻想」の冒頭で「日本の庭は、古い時代の、その成り立ちから幻想を具象化する喜びがあったのではないか」と書いているが、白洲の考察は画伯の問いへの一つの答えになっているのではないか。彼岸の思想に到達するまで「昔の人たちは、どれほど自然を拝んだことか。見つめたことか」と白洲は書く。昔の人にならって、私も晩秋の境内を歩く、石の庭を見つめる。

書院から眺める紅葉と庭園

書院から眺める紅葉と庭園

近江の聖徳太子伝承
「記紀」には、聖徳太子と近江との関わりを示す記述は見あたらないが、教林坊だけでなく、百済寺、瓦屋禅寺など太子伝承を持つ寺社が滋賀の特に湖東地域には多い。10世紀ごろに成立した「聖徳太子伝暦」に、太子が仏師・鞍作鳥(くらつくりのとり)に「近江坂田郡水田二十町」を与えたとあり、こうした記述が、太子伝承が広まった要因ではないかとする学説もある。

 鳰(にお)
「にお」は小型の水鳥「カイツブリ」の古名。琵琶湖岸のヨシ群落内などに営巣することから滋賀県の県鳥となっている。

文・白石亘、中山敬三

写真 、動画・畦地巧輝、板津亮兵

アクセス

滋賀県近江八幡市安土町石寺1145

【公共交通機関】
JR安土駅よりタクシー約10分(2000円前後)

【自家用車】
名神高速道路竜王IC または蒲生スマートICから約20分

名神高速道路彦根ICから約50分

【開館時間】
春と秋に公開。下記以外は非公開
 ◇緑の時期の公開 4月中旬~6月、10月の土日祝休日のみ公開
 ◇紅葉の公開 11月1日~12月中旬の毎日公開
         9時半~16時30分
 ◇紅葉ライトアップ 11月中旬から12月初旬の17時半~19時(18時半受付終了) 

【料金】
緑の時期の公開 大人800円 小中学生200円。
紅葉の時期の公開 11月1日〜12月中旬は大人1000円、小中学生300円

【問い合わせ】
TEL 0748-46-5400
FAX 0748-46-5539