雪舟庭園

雪舟は室町時代の画僧。明に渡って山水画を学んだ水墨画の大成者で、のちに「画聖」と称された。

庭造りにも特異な才能を発揮し、幽玄な山水画の世界を庭に再構成した。

雪舟が手がけた庭は、島根県益田市の萬福寺や医光寺、山口市の常栄寺など、中国地方から九州北部にかけて残っており、昭和を代表する作庭家、重森三玲は「まことに傑出した名園である」と評する。

ここが安寧の
一世界

萬福寺
「須弥山と九山八海の庭」

白みがかった庭石を使って仏教の世界観を表現した庭は、石組みの造形美が荘厳さを感じさせ、見る者を圧倒する。

なだらかな稜線を描く築山の頂上に矢尻のように鋭い形をした中心石がある。

古代インドの神話で仏教世界の中心とされた「須弥山(しゅみせん)」の象徴だ。

須弥山を中心とする築山の集団的な石組みは「九山八海(くせんはっかい)」を表している。

九つの山と八つの海が交互に折り重なり、仏教世界で宇宙を構成する単位に当たる。

池の右手には枯滝があり、鯉が滝を登って龍になる登龍門の故事にちなんだ「龍門瀑(りゅうもんばく)」の石組みがある。

雪舟は石見の武将益田兼堯(かねたか)の肖像画を描くため、当地に招かれたとの記録が残る。庭園はこの時に造られたと考えられる。

雪舟が作庭した萬福寺の庭園

雪舟が作庭した萬福寺の庭園

ドローンで真上から見る萬福寺の築山

ドローンで真上から見る萬福寺の築山

医光寺
「鶴亀の庭と枝垂れ桜」

亀島を中心とする池庭。

池の真ん中に浮かぶ亀島には亀の頭や甲羅を表す石組みがあり、背中には中国で不老不死の仙人が住むとされる蓬萊(ほうらい)山を背負っている。

池の左手の護岸には鶴の首や羽に見立てた石組みがあり、山裾に沿って枯滝の庭石が並ぶ。

樹齢450年と伝わる枝垂れ桜は例年3月下旬に見ごろを迎える。

雪舟は医光寺の住職に迎えられ、作庭したと伝わる。

枝垂れ桜が美しい医光寺の庭園

枝垂れ桜が美しい医光寺の庭園

庭の中心には亀島が置かれる

庭の中心には亀島が置かれる

小川家雪舟庭園「堅固な滝石組の庭」

山の斜面に造られた庭は上下2段の滝石組が見どころ。

上が平らな立石を大量かつ高密度に組み上げて、滝の流れを表現しており、堅固で古式な印象を与える。

小川家の祖先は承久の乱(1221年)で敗れ、隠岐島に流された後鳥羽上皇の家臣。

島根県江津市和木を領有し、この地を開墾したり海路を開いたりして「和木将軍」と呼ばれた。

庭は室町時代に小川家に滞在した雪舟が造ったと伝わる。

山の斜面に造られた庭は上下2段の滝石組

山の斜面に造られた庭は上下2段の滝石組

小川家庭園の門

小川家庭園の門

「島根の庭を見に来ませんか」。今年の春、中部の庭を紹介しているこの連載を知った島根県名古屋事務所から声が掛かった。画聖・雪舟が手がけた庭をめぐってみてはという提案だ。益田城主の招きで石見国を訪れた雪舟が手がけた庭は、地域の誇りとなっているという。

 益田市にある萬福寺の庭は1479年、雪舟60歳の作と伝わる。地元では「弓の音聞かぬ国、鞆(とも)の音聞かぬ国」と評された希有(けう)な安寧が、雪舟がこの地に滞在した理由の一つとされている。風がそよぎ、陽光があふれる庭からは、確かに雪舟の心の余裕が伝わってくるかのようだ。奥のとがった須弥山石を中心とした石組みは、海と山が交互に須弥山をめぐる九山八海を表現しているという。仏教の世界観を象徴する須弥山の庭園としては「最もすぐれているだろう」とする斎藤忠一氏のような専門家もいる。不立文字(ふりゅうもんじ)の禅僧として書き物を残さなかった雪舟の思想に触れることができる場所なのかもしれない。

雪舟が仏教の世界観を表現し、作庭した萬福寺の庭園

雪舟が仏教の世界観を表現し、作庭した萬福寺の庭園

 医光寺は、今はない崇観寺の塔頭(たっちゅう)で、益田氏に請われ、崇観寺の住職を務めていた雪舟が作庭を手がけたと伝わる。鶴をかたどった池に亀島を浮かべた蓬萊式庭園。作庭家の重森三玲が「…風に揺れている桜の風情こそ、ただ単なる桜ではなかった。…亀島の中心石が、泰然として動かない強い表情に対して、桜の花が動く庭の美は、作者の雪舟も考えて見なかったことであろう」と激賞した光景を目の当たりにするうれしさ。花の季節に声を掛けてくれた島根の人の配慮が心にしみた。

およそ樹齢450年とされるしだれ桜が、華やかに彩る

およそ樹齢450年とされるしだれ桜が、華やかに彩る

 江津市にも、雪舟作と伝わる庭があった。小川家が代々守ってきた池泉鑑賞式庭園。なぜ民家の庭を雪舟が、との疑問は、42代当主夫人・小川敬子(きょうこ)さんの説明で氷解した。小川家の祖先は、承久の乱(1221年)に敗れ、隠岐島へ流された後鳥羽上皇の家臣。上皇の帰還をこの地で待つ間に、事業を発展させ「和木将軍」と呼ばれるほどの権勢を誇るに至ったという。上下2段の見事な滝石組には、生きて上皇を迎えることのできなかった一族の悲嘆と敬慕が宿っているのだろうか。

上下2段の見事な滝石組が特徴

上下2段の見事な滝石組が特徴

雪舟
1420年、備中国(現在の岡山県総社市)に生まれる。諱(いみな)は等楊。京都の相国寺で禅と絵の修行をする。応仁の乱が起きた67年、西日本で勢力を誇った大内氏の援助で明へ渡り、中国の画法を学んだ。「慧可断臂図(えかだんぴず)」「天橋立図」など6点が国宝指定を受けている。1506年など没年、終焉(しゅうえん)の地には諸説あるが、益田市の大喜庵に墓所がある。

文・白石亘、中山敬三

写真 、動画・畦地巧輝、板津亮兵

アクセス
萬福寺

島根県益田市東町25-33

【公共交通機関】
バス:市内線など「医光寺前」下車 徒歩6分

【自家用車】
益田駅から10分

【開館時間】
8:30〜17:30(冬季17:00まで)

【料金】
一般 500円(400円)
高校生 300円(200円)
小中学生 無料
※カッコ内は団体(20人以上)割引
※障害者手帳等をお持ちの方は100円引き

【休業日】
年中無休

【問い合わせ】
TEL 0856-22-0302

アクセス
医光寺

島根県益田市染羽町4-29

【公共交通機関】
バス:市内線など「医光寺前」下車すぐ

【自家用車】
益田駅から10分

【開館時間】
8:30〜17:30(冬季17:00まで)

【料金】
一般 500円(400円)
高校生 300円(200円)
小中学生 無料
※カッコ内は団体(20名以上)割引
※障害者手帳等をお持ちの方は100円引き

【休業日】
水曜日休館(令和7年5月14日より)
冬季(1月・2月)平日休館・土日は拝観可能
※団体拝観は応相談

【問い合わせ】
TEL 0856-22-1668

アクセス
小川家雪舟庭園

島根県江津市和木町165

【公共交通機関】
JR山陰線江津駅から石見交通周布・浜田行きバス「和木」下車。徒歩約5分

【自家用車】
山陰自動車道(江津道路)江津ICから10分

【開館時間】
9:00~17:00

【料金】
大学生以上 500円

【休業日】
水曜日
※臨時休業の場合あり。訪問される場合は事前にお電話でご確認ください。

【問い合わせ】
TEL 0855-53-1213